【相談の要旨】
1 最近、銀行の預金顧客の預金通帳と届出印が窃盗団の盗難に遭い、窃盗団がこれを使って本人になりすまして、銀行の支店の窓口で預金を払戻すという事件がしばしば報道されています。
本人ではないことに気づかずに、払戻しに応じてしまいますと、後日、真の預金顧客から、「預金の払戻しは無効であるから、再度、私に払戻して欲しい」という請求が来ますので、二重払いを強いられるおそれがあります。当行にとっても他人事ではなく、深刻な問題となっています。
最近も、当行の○○支店と××支店を所轄する△△警察から○○支店及び××支店に対して、「当警察署管内で、窃盗団による同種の被害が多発しているので、銀行も注意されたい」旨の呼びかけがなされていたところでした。
2 窃盗団による盗難通帳を利用した払戻し手続は、顧客の預金口座が開設された支店以外の支店(「他店」といいます)でなされることが多いのです。これは、開設した支店ですと、窓口の担当者が預金顧客の顔を覚えているということもあるため、これを避けることも理由の一つと思われます。
そこで、当行では、他店での盗難通帳と盗難印鑑を利用した払戻しを防止する意味で、他店での払戻しの場合、払戻し金額が100万円以上のときは、窓口の行員の判断では払戻しに応じないで、「証印者」として指定されているベテラン役職者が、払戻請求者と面談する等して、本人か否かを確認したうえで払戻すこととしております。
3 平成15年7月15日夜に、当行の○○支店の預金顧客である渡邊一郎氏(50歳の男性)の普通預金の預金通帳(残高200万円)と届出印が窃盗団に盗まれ、7月16日午前9時15分に、犯人(40歳前後に見える女性。ここでは、「A」としておきます)が、××支店にやってきて190万円の払戻しを請求しました(もちろん、盗まれたことは、後日わかったことです)。
払戻しを担当した当行の××支店の窓口の行員Bは、預金通帳に押印してある届出印(「副印鑑」と呼んでいます)と払戻請求書に捺印された印影を照合して、これが同一であることを確認しました。また、払戻請求書の氏名には、「渡辺一郎」と記載されており「渡邊一郎」と異なっていましたので、行員Bが、氏名を正確に記載して欲しいとAに申し出たところ、「主人はいつも略字を使用している」との返答でしたので、行員Bは、Aは渡邊一郎氏の妻であると思いこみ、それ以上の要求はしませんでした。
払戻請求額が190万円であるので、行員Bは、証印者である行員Cに預金通帳と払戻請求書を引き渡し、Aとの面談を依頼しました。
4 行負Cは、払戻請求書の印影が預金通帳の副印鑑の印影とも同一であることを確認した後、Aと短時間の面談をしましたが、特段、不審に思える点はなかったので、Aの氏名も確認せず、身分証明書の星示も求めないまま、190万円の払戻しに応じました。
その直後に、渡邊一郎氏から○○支店に通報があり、渡邊一郎氏の預金通帳と印鑑が窃盗の被害にあったこと(すなわち、Aが窃盗団の一員であること)が発覚しました。当行から、払戻しの際の経緯を説明したところ、渡邊一郎氏からはご納得は得られず、当行に対して190万円の支払いを請求してきております。
当行としては、氏名の記載が正確でなかったとはいえ、略字で書かれることはよくあることですし、また、証印者CがAに面談した際も、特段不審に思える点もなかったのですから、落ち度はなかったと考えています。なお、妻が夫の預金の払戻しに来店することは頻繁にあることです。
6 そもそも、当行の預金規定には、以下のような規定があり、偽造の通帳や印鑑による払戻しであればともかく、本件は、通帳・印鑑とも本物だったわけですから、この預金規定に照らしても、当行の支払いが無効になるとは到底考えられません。
(預金規定の条項)
「この預金を払戻すときは、当行所定の払戻請求書に届出の印章により記名押印してこの通帳とともに提出してください。」
「この通帳や印章を失ったとき、または、印章、名称、住所その他の届出事項に変更があったときは、直ちに書面によって当店に届出てください。この届出の前に生じた損害については、当行は責任を負いません。」
「払戻請求書、諸届その他の書類に使用された印影を届出の印鑑と相当の注意をもって照合し、相違ないものと認めて取扱いましたうえは、それらの書類につき偽造、変造その他の事故があってもそのために生じた損害については、当行は責任を負いません。」
7 ただし、当行としても、裁判になった場合に当行が敗訴する可能性が高いのであれば、調停などの話し合い解決も検討しなければならないと思います。
逆に、当行としても、説明のつかないお支払いはできませんので、裁判になった場合に当行が勝訴する可能性が高いのであれば、渡邊一郎氏に対して、お支払いをお断りしなければならないと考えています。
そこで、当行の顧問弁護士の本郷先生のご意見を頂戴したいと思います。
以上