借入をしようとするとき、金融機関からは決まって
「決算書と試算表をください」
などと言われる。時にはもっと様々な書類を要求されることがあるだろう。
そのような場合はいったいどこまで提出する義務があるのか。
今日は、そんなことを整理してみようと思う。
会社法をつらつらと眺めていると、ところどころに株主や債権者、親会社の株主などの書類閲覧謄写請求が散らばっている。案外とわかりにくいところであるから、頻度の高い「債権者」に限って、まとめてみる。
①定款
債権者は、営業時間内はいつでも、謄本を請求できる(会社法31条2項2号)。会社が費用を定めているときはその支払いが必要である(同31条2項但書)。
②株主総会議事録
債権者は、営業時間内はいつでも、謄写を請求できる(会社法318条4項1号、創立総会の場合は81条3項1号・82条3項1号)。コピーさせてください、ということだから、費用はもらえない。コピーを作成して渡すなら、費用をもらってもいいだろう(私見)。なお、種類株主総会の場合にも同様である(325条による準用)。
③株主名簿
債権者は、営業時間内はいつでも、謄写を請求できる。この場合、理由を明らかにしてしなければならない(125条2項・同項1号)。目的が正当でないときは、会社は拒否ができる(同条3項各号)。権利行使や権利確保のために必要な場合ということなら拒否できないのだが、会社が正常なときは拒否できるものと思われる。
④取締役会議事録
債権者は、役員・執行役の責任追及のために必要なときは、謄写を請求できる。この場合、裁判所の許可が事前に必要である(371条4項)。裁判所は、機密の漏れが著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、許可してはならない(同条6項)。
⑤監査役会議事録
債権者は、役員の責任追及のために必要なときは、謄写を請求できる。裁判所の許可が必要なこと、許可の条件が定められていることについては、④と同じである(394条3項2項・同条4項)。④と異なり執行役は監査役会設置会社にはありえないので、④と少しだけ違うのだ(327条4項参照)。
⑥委員会議事録
債権者は、委員の責任を追及するために必要なときは、謄写を請求できる。裁判所の許可が必要なこと、許可の条件が定められていることについては、上記と同じ(413条4項3項・同条5項)。
⑦会計帳簿
株主ですら原則3%以上保有していないと閲覧できない少数株主権である。債権者には、閲覧請求権はない。
⑧いわゆる決算書(計算書類等)
債権者は、営業時間内はいつでも、謄本を請求できる(442条3項2号)。費用を定めているときは、支払いが必要である(同項但書)。
⑨いわゆる試算表(臨時計算書類等)
実は、正式な「臨時計算書類等」になるためには、業務担当取締役が作成し、監査役の監査を受け、取締役会で承認し、株主総会の承認を受ける必要がある(441条)。取締役会設置会社で会計監査人が無限定適正意見を付した場合だけ、株主総会が不用になるが、たとえば、監査役もいない、取締役会もないということであれば、株主総会の承認が必要になってしまう(同条4項3号)。
この意味の臨時計算書類等は、年次の決算書と同様の効力が与えられている(配当の計算など)。債権者も、費用を払って、謄本を請求できることになる(442条3項2号442条1項2号)。
普通に作っている月次の試算表は、単なる会計帳簿の一部か、法的には意味のない書類に過ぎないことになるのだ。ということは、銀行に渡す義務はないということになる。
長々と説明してきたが、債務者としては弱い立場である。また、決算書の内容を説明する際に、減価償却の内訳や固定資産の内訳についても説明する必要が出てくる。
また、利益相反取引や重要な財産の取引、多額の借財などについては、本来は取締役の一存では決められず、取締役会の決議が必要なため(365条1項356条、362条4項1号2号など)、銀行から議事録を要求されることもある。裁判例の中には強気に拒絶した債務者の例もあるが、たいていは素直に出しているようである。
中小企業では軽視されがちな議事録だが、一つ一つきちんと書面で残していってほしいものである。