法人のバランスシートに社長からの借入金が載っていることがよくある。
中小企業では、収入の変動が大きいこともあり、いちいち金融機関から借入をするのではなく、社長からちょっとお金を借りて資金調達を簡易に済ませることが多いのである。
さて。この借入は、証文もなく、無利息、無期限、無担保で行われることが多いのであるが、
これについて素朴な疑問を持たれることはないであろうか?
| 疑問: 逆に社長に対して会社が貸付をした場合は、金利を計上しなければならないと税務署に指摘されるが、なぜ、借入の場合には金利を計上しろと言われないのだろうか? |
この質問は、経理に携わる者がまず最初に感ずる初歩的な疑問ではないだろうか。
法律的な観点から説明すると、
①法人税法の22条2項は、無償取引の場合であっても「益金」を構成することを明文で定めている。しかし、所得税法の収入金額は無償の場合まで「経済的利益」とまでは言えない(36条1項)。
②民法の消費貸借契約は、原則無償取引である(民法587条)。しかし、商法では、商人間の金銭消費貸借契約は付利が原則であり(商法513条)、また商人が他人のために行為をしたときは当然に報酬請求権が発生する(同512条)。
「商人」とは、結構難しい概念であるが、会社は常に「商人」である(会社法5条・商法4条1項)。社長は個人であるから、ただで貸すのが当たり前だけれど、会社は営利目的なので、利子をつけないと貸さないということなのである。①の税法は、このことを踏まえて制定されているので、これを知らないと、
??何で借入は無利子で貸付は有利子なの?
という素朴な疑問が生じてくるわけだ。
さてさて。話はここで終わりではない。
おもしろい事件を紹介しよう。
大蔵財務協会が発行している書籍類にも社長借入には利子を払わなくてもよいという国税庁の方の官職名付の記述がある。そこで、ある人が、それならばと、銀行から借りた3455億円を会社に貸し付けて、そのお金で自己所有の上場株を買い取らせ、自分は翌日には対価として得た3455億円を銀行に返済した。当然、会社には、上場株と社長借入がほぼ同額で残る。社長借入は、例によって無利息、無期限、無担保である。
税務署の調査官は、これを異常取引だと考えた。いくら何でも、金額が多すぎる。一日の金利は3,000万円もしたという。そこで、伝家の宝刀をズバッと抜いた!
O―157……じゃなくて、所得税法157条の「行為計算の否認」である。
認定利息というのだが、社長に雑所得を認定して、課税したわけだ。
社長は、無利息でよいはずだ、と訴訟を起こしたが、最高裁判所は、多額の無利息、無期限、無担保の貸付は、「経営責任を果たすために実行したなどの事情」がある場合を除いて、不合理、不自然な経済的活動である、したがって、税務に携わる者は所得税法157条の適用があることを予期して然るべきである、という判断を下した――。
最高裁の判決によっても、「多額」がいくらかについての判断基準もないし、「経営責任を果たす」という事情がいかなるケースを想定したものであるかもわからないので、この判決はいわゆる事例判決にとどまるとせざるを得ないが、税理士の世界での
借入は無利息でよい、という常識めいた考えは、これで一定のリスクを背負ったものであることが明らかになった。
最高裁の考え方の中には、所得税法と法人税法の文言の違いも、商人と非商人の違いも、現れてこない。単に、157条の問題として処理されているのである。
この条文は、まことに食中毒のような、「あたるとおそろしい」条文のまま、君臨している。
爆弾を抱えたこの条文は、実務家にとって、常に注意をしなければならないものの一つなのである。