あなたがたまたま金の延べ棒を一本持っていたとする。これを元手に1000億円集めることができるでしょうか。こんなことを実際にやってしまった人がいるのです。
有名な豊田商事事件だ。
あなたのもとに一人の営業マンが訪ねてくる。
手には重そうなカバン。彼はおもむろにカバンから何か厳重に包装された中身を取り出した。
鈍く光るその物体はーーーー! 金の延べ棒であった!
彼は言う。
「これを買って、私に預けてください。私は毎月高額な賃借料を払いましょう。」
折もおり、金利も安く、何かよい投資物件でもないだろうかと考えあぐねていたあなたは、よい案配とばかりに話に乗った。世界的に信用のある金。価格が落ちない金。しかも賃借料をいただける。話は悪いようには聞こえなかった。
彼は、契約書と引き換えにお金を預かり、翌月から銀行口座に約束どおり賃借料が振り込まれた。
ちょっと考えればわかりそうなものだが、年配の方々を中心に、被害は1000億円に上ったという。仮に一本しかない金の延べ棒であっても、幾重にも重ねて売ればすさまじい金額になる。彼が集めたお金をどう運用して賃借料を払うつもりだったのか知らないけれど、そんなことはできるわけもない。
破産管財人が財産を調査したところ、ふたを開けてみれば、30億円しか残っていなかったという。
こんなことをきっかけに、消費者を保護する法制が整備されてきた。「消費者契約法」という名前の法律が平成13年4月1日から施行されている。事業者と消費者との間に情報格差があることに鑑みて、誤認や困惑から消費者を保護しようというものだ。通常の民法では取り消しができないような場面で、あっさりと契約の取り消しや無効ができるようになっているので、ぜひ勉強しておきたいところだ。
例えば、事業者が事実と異なることを告げたり、不確実な事項について断定的判断を提供したりしたことによって、消費者が誤認をして契約を締結してしまった場合。
あるいは、重要事項について故意に不利益な事実を告げなかったことによって、消費者が誤認をして契約を締結してしまった場合。
また、出て行ってくれ、と言っているのに退去しなかったり、帰りたいといっているのに帰らせてくれなかったりしたことによって、困惑して契約を締結してしまった場合。
このような場合には、契約を取り消すことが認められているのだ(消費者契約法4条)。
ただし、半年以内に行使する必要がある(同7条)。
他にも、一方的に消費者に不利な条項などを定めた契約の文言は無効になったりすることが定められている(8・9・10条)。
なお、消費者とは、その契約ごとに決まるので、個人事業者を営んでいる人が消費者にならないというわけではない。誰でも消費者になりうるのである。事業を営んでいる人は、重要事項をオープンにして、フェアな取引を心がけないと、取り消しされることになるのである。
インターネットの消費者保護としては、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律がある。思わず知らず、ボタンをクリックしたとたんに、「5万円振り込んでください」などというポップが出るような怪しげなHPが存在しているが、そんなものは払う必要がない。同3条によって、錯誤による無効が認められているのである。
今日はこの辺で。