税理士はちょっとした金庫番である。
お客様から相続で取得した上場株式の名義書換の相談などされて、氷見市にあるご自宅にうかがったりする。このお客様は、男気のある方で、私がもっとも尊敬するお客様の一人である。
手続はそう難しいものでもないが、お年を召されると細かい書類がおっくうになり、私のようなものに頼んだ方がよいと考えられるようだ。
私も茶のみ相手のつもりで、ご自宅にうかがってはいろんな話をする。
司法試験に不合格であった話をすると、
「そりゃあ残念だな。あんたにはぜひ合格してほしかった。」
と慰めてくださった。
「人間、何十年も生きると、一つや二つ心に傷をもっているものだ。」
「本当に順風満帆な人生をおくる人間などいやしないぞ。」
この方は、親族間の血みどろの争いに巻き込まれ、10年ほど訴訟に費やされた挙句、たいへんな金額の保証債務を背負っておられる。子ども達を抱えて、斬った張ったのたいへんな人生を歩んでこられた豪傑である。最愛の奥様も亡くされ、会社も長男に託し、すでに一人で静かな生活をされている方だ。
その言葉の重み。私は、試験に落ちるくらいがいったいなんだろうと、いまさらながら心が軽くなった気がした。弱い自分に比べれば、この人はいったいいくつの修羅場をくぐりぬけてきたのだろうか。
私には会社がある。
そこには頼りがいのある仲間たちがおり、先輩たちがいる。
また、このようにすばらしいクライアントたちがいる。
みな、こんな私を「先生」と呼んでくださり、大切にしていただいている。
何をいまさら不満に思うことがあろうか――。
平成の梁山泊。
私は以前、うちの事務所を水滸伝に喩えたことがある。
老若男女、ここには夢をもった多くの人々が集う場所だ。
人間はかがやく。
そのまばゆい輝きは、日輪の光をも凌駕する、白銀のひかりである。
夢。
希望。
そして、感動。
この精神の躍動を、何か形にすることはできないものか。
そして、相互に呼応させ、音叉のように巨大な音響システムを創ることはできないものか。
さらに、その勢いを集約し、昇り行く龍のような猛々しい企業群を創ることはできないものか。
行き渡れ、夢と希望。
溢れかえれ、感動の渦。
響け、喜びの波動。
人の智慧を結集し、資本を集約して、巨大な流れを作り出すこと。
何か、起爆装置のようなものを私は造りたいと思っている。
本日は、富山市に本社のある、とある株式会社の税務調査立会いの日であった。
ほぼ事前のシナリオどおりの結果になりそうなので、何とか職務を全うすることができたと思い、今、ホッとしている。無論、相手のあることなので、まだ完全に安心することはできない。
今日は忙しい日だった。
お昼休みには別のクライアントの古物営業許可申請書の提出に、富山中央警察署へ。
税務調査の関連で、夕方までクライアントに問題点の報告。
合い間に、高岡のクライアントから、得意先に対する債権譲渡契約に関する質問が入る。
その後、小杉のクライアントのところへうかがい、書類の完成。
私は、税理士であると同時に行政書士でもある。
最近は、外国人のビザに関する仕事がたいへん増えてきている。
18:30帰社。
机の上にはさまざまな書類が積み重ねられている。
①官報。国の主要な出来事はこの官製の新聞に記載されるので、私は毎日目次だけはすべて目を通している。
②政府の新着情報(Eメール)。法令規則・告示は官報でチェックできても、通達や情報と呼ばれる種類のものは官報に載らないものがほとんどである。
③クライアントの株主総会の議事録。新年度の役員報酬の金額の決定に関するものであった。
④社内の回覧板。
⑤新しいクライアントの給与計算と給与明細・金種表。24時間オープンのゲームセンターのため、アルバイトの給与(丙欄適用)であっても結構ややこしい。法内残業では所定労働時間外であっても時間外手当の問題にはならない。36協定(サブロク協定と読む)も関係ない。休日の場合や、深夜労働の場合には割増賃金の問題となる。今後、正社員に採用するときの雇用条件通知書の作り方を指導する必要がありそうだ。タイムカードから一つずつ丁寧に電卓を入れてみる。
思いのほか、時間がかかり、ハッと気がつくと既に21:00に十分前であった。
今日で税務調査が終わり、明日は予定があいたので、氷見のクライアントに電話する。
明日は午前中、氷見へ。午後は、富山市へ。時間がありそうなら入国管理局へ行ってみる。
遅番の彼に声をかけ、21:00ちょうどで退社した。
上の娘が「地球温暖化について」というレポートを書いて、小学校の優秀賞だかなんだかをもらったという。
つまつまと、超大作を読みふけっていると、ハチドリが山火事を消そうとして、くちばしに水を含んで火に掛ける話が出てきた。他の動物たちは無駄な努力と笑うが、ハチドリは「今の自分にできることを一生懸命にするのだ」と堂々と応える。
私には、何だか、ぐさりと胸に刺さった気がした。
地球温暖化の話ではない。
私自身が小さなものを馬鹿にしていないか、態度が生意気ではなかったか?
人の気持ちを大切にしていたか?鼻にかけたりしていなかったか?
何か大切なものを忘れていなかったか――?
おそまつ!
この歳になって、反省ばかりの毎日なのである。
今日は、新大阪だった。
興味のある内容の研修に参加したのであるが、たいへん有意義な内容であった。
いちばん前で、レポート用紙にノートを書きまくっていた派手ないでたちの男。
先生、それは私であります。
レポート用紙は、3時間で10枚にもなった。
研修の内容がすばらしかったのであるが、労働関係だっただけに、どちらかというとうちの社員たちのことが走馬灯のように頭をよぎったのである。
よく働いてくれる社員たち。いつも明るく、私を支えてくれる社員たち。日々、たいへんな業務も少なくないだろうに、泣き言の一つも言わず、よくぞわが社に尽くしてきてくれた。
私が別の道を歩むようになってから、何年になる?
大学院入学を目指していた頃を数えると、すでに約4年くらいか。4年もの長きにわたり、私は役員含め、二十数名の社員たちにただ飯を食わせてもらっていたことになる。
会社の命運をかけたチャレンジだったとはいえ、所詮は、結果がすべてだ。
当社のグループ全体の中では、私の地位と責任はまだ中途半端だ。パートナー税理士とはいえ、人事権もないし、経営の決定権もない。だが、そろそろ機が熟しつつあるように思う。もう一度、会社のために、全力を投入する時が近づいている。もてる力のすべてを解放すべき時が近づいている。
プルデンシャル生命の方とお話ししていて、ふと思いついたことがある。
彼は、私に将来の生活設計を運んできてくれたのだが、将来の生活設計が必要なのは、私だけではない。社員たちにも将来があり、老後があり、それぞれの人生がある。私に生命保険が必要なのであれば、社員たちにも必要でないわけがない。国が頼れない以上、使用者である私が若い彼らの老後を背負っていかなければならないのだ。
将来、歳をとっても、会社でめぐり合えた社員たちとの縁を一生大切にして、いつまでも一緒にゴルフに行ったり、食事をしたり、釣りに行ったり、温泉に行ったり、海外旅行に行ったりするような、崎山会計OBOG会を作りたいと思う。いつまでも、いつまでも、大切な友人として、付き合っていきたいし、友人として付き合って欲しい。
わが社にも、改革すべき点がたくさんある。
私は、これからの人生を、全力でわが社の隆盛に賭ける。
そんな誓いを心に残した。