私が大原簿記学校にかかわったのは、平成5年と平成6年の2年間だけである。
平成5年に父に半ば強引に勧められて富士宮に見学に行き、入学を決意、すぐに手続をして入校した。
生粋の第1期生である。
法学部出身の私は、簿記も会計学もほとんど知らなかった。
悪いことに、旧司法試験の落ち慣れで、すっかり腐れ人間の負け犬になっていたのだ。
税理士を馬鹿にする、鼻もちならない私の鼻を、S先生の法人税の講義は、見事にへし折ってくれた。
みんなが覚えた租税特別措置法の条文(交際費)を、私はどうしても暗記することができなかったのだ。
陰陽、さまざまなプレッシャーの中、私はついに負け犬から脱却した。
今思えば、あの変化こそ、先生方は驚いたであろうと思う。
「ちくしょう!」歯ぎしりをしながら、私は、27歳にして、生まれて初めて、一生懸命に勉強するという姿勢を覚えたのである。
講師陣の中で、私が知る限り、最も美しい完成された講義をされたのは、相続税のT先生であった。S先生のエネルギーあふれる講義に比べると、静かな講義であった。しかし、美しい。ヒトコマの中にストーリーを埋め込み、完璧な講義をされる。一言一言がまったく無駄のない、正確無比な授業であった。早稲田大学を含め、私はT先生の授業は、クオリティの最も高い授業であったと確信している。
その後、東大の大学院に行って、刑法の山口厚先生の授業を聞いて、これは甲乙つけがたいと思った経験があるが、あとにも先にも、T先生と山口先生だけが、私が講義を完成された珠玉の作品と思った最後である。
今回は、T先生と、朝の4時までお酒を飲んでお話をした。私にすれば、光栄なこと極まりない。今や、S先生もT先生も、私を対等にお話ししてくださる。
気の置けない、同窓の同士たち。
今なお、切磋琢磨したタックスカレッジの記憶は消えはしない。東大のロースクールも楽しかった。タックスカレッジに私が在籍したのはたったの10カ月。ロースクールは2年間である。それでも、タックスは起居を共にし、24時間一緒に暮らした仲間たちである。
いつの間にか、富士宮校は閉鎖されていた。
さびしい。
負け犬だった私を、法人税戦士に変えてくれたS先生。
相続税の実力を徹底的にたたき込んでくださったT先生。
消費税の5連続満点でアナゴのしろ焼きをごちそうしてくださったN先生。
そして、簿記などまったく知らなかった私を、いきなり合格させてくださったK先生。
先生方とは今でも交流を維持している。しかし、それでもたまらなく、さびしい。
この友人たちを、いつまでも大切にしようと思う。
ときどき会って、声をかけ、ゴルフをし、酒を飲み、温泉に行き、食事をしよう。
友達のできない私。そんな私の数少ない友達なのだ。